いぬもあるけば・・・「谷中散策」
2001年3月20日 アーティスト上野茂都さんの個展の打ち上げで会った、町田久美さんの個展を見に出掛けた。
会場は谷中にあるギャラリー猫町。谷中には一度も出かけたことがなかったので、そういう点においても楽しみだった。
地下鉄千代田線千駄木駅を出て、すぐの信号を渡る。数歩歩いてわかる。いつもとは「違う」ところに入り込んでいることを。
散策マップを片手に歩いている人たち。江戸民芸の「いせ辰」はこんなところにあったのか。
ギャラリーは住宅地、道路に面した階段を上がったところにあった。ふつうの住宅を改造したような感じ。ごめんくださいと声を掛けたくなる。
本人はいないだろうと思っていたらいきなり本人がいた。お話を伺いながら作品を観た。彼女は招き猫や福助人形を題材に「人が知らない彼らの日常」を描いている。日本画を専攻していたということで、和紙に墨で描いている。その世界観は独特で、コミカルな題材のはずが異界のものを覗き込んでしまったような気持ちにさせる。真夜中歩いていたら、薄汚れて虚ろな目をしたキューピー人形に出会ってしまったときに感じるヤバさ。
平面作品だけでなく、てびねりの招き猫などもあった。そこで眼にしたのは真っ黒く顔の所が金色で半月状に塗られている作品。他の物とは「違う」。来てみたところ、夢に見たものだという。この人の作品は見る人を無意識界に強制的にリンクさせるものなのかもしれない。
DMに印刷されていた作品はニューヨークで展示したときに元絵が紛失してしまったらしい。展示しているシルクスクリーン(30部限定)のみしか残っていないという。他にもむやみに折られてしまったりと散々だったそうだ。
惹かれる作品があったが、そう気軽に買える値段でもない。小一時間ほど堪能して辞することにした。
外をでるとすでに夕方。朝から何も食べていないことに気がつき、蕎麦屋に入ってちょっと引っかけた。新装した雰囲気の店だったので期待したが、それなりの味。
小腹は膨れたが、気持ち的に物足りなかったのでちょっと気になった喫茶店に入ることにした。その店の名は「乱歩」。入り口周辺には猫関係の張り紙がたくさん張ってある。さきほどのギャラリーといい、この町は猫に何か因縁があるのだろうか?
不思議に思いながら店に入る。そこは、また異空間だった。ジャスを流していて、それ関係の書籍や資料が置いてあるがそれよりも目をひくのは、民芸品などの雑貨。それもどちらかといえば、セクシャリティな意味を持たせるものが多い。店内の暗さも相まって独特の雰囲気を持っていた。
夕方なので、散策客もほとんどなく、地元の人たちが文庫本を片手に時を過ごしている。壁を見渡すとマスターの知り合いのアーティストの作品らしいものが飾られている。カウンターには個展のDMがいくつか置いてあった。
私は入り口手前のカウンターに座った。喫茶店にしても居酒屋にしても、初めての店はなるべくカウンターに座ることにしている。そうすれば、その店が判るからだ。マスターが、馴染みの客がどんな人なのか知れる。カウンターのない店は単なる「店」でしかなく、「居場所」にはならない。今回もそういうことでカウンターに座った。店の雰囲気からおそらくブレンド1種類しかないと思われたので「コーヒー、1つ」と注文。出されたのは私ごのみのサラリとしたコーヒーだった。置いてある本や雑誌に触手が動かなかったので、私はコーヒー片手に文庫本のテキスト化に勤しんでいた。
私の後から女性が入ってきて、カウンターに座った。馴染みらしく、マスターに今日の出来事を話している。今日は上野動物園に行ってきたと。何を見たのだろうと、アヴァンティの教授よろしく耳をそばだてると、「バナナの木を見た」と。心の中でずっこけた。全てを見て回ろうとしたのではなく、ふらふらと散策したようだ。その行動パターンに個性を感じた私はもう少し観察してみることにした。
絵日記らしきものを書いていた。水性ボールペンで細かい文字で書き書き。手慣れたイラストが眼に入る。と、カウンター上に置いてあるDMを数えだした。どうやら彼女のDMらしい。つまり彼女はアーティストだということだ。気にしていなかったDM、よく見ると先ほどから気に掛かっているカウンター脇の絵に似ている。発色が全然違うので気が付かなかった。
「もしかして、この絵は・・・」と額縁に手を掛けながら彼女に尋ねた。やはり同じ作品だった。手元に引き寄せ、絵の全体が見えて、驚いた。その絵は非常にセクシャルな絵だたからだ。下部がものに隠れていたとき、私は暗い部屋に佇む女性の絵だと思っていた。確かに佇んでいたが・・・。
この女性に町田さんと同様の異質なもの、異界への扉のようなものを感じ取った。私はDMを受け取った。今度、銀座のギャラリーで個展をするという。作家名は「綺朔ちいこ」。
マスターが飼っている猫としばし遊んだ後に「乱歩」を後にした。すでに日は落ち、辺りは闇に包まれている。逢ヶ魔刻か・・・。私は軽い疲労感と共に駅に向かって歩き出した。
会場は谷中にあるギャラリー猫町。谷中には一度も出かけたことがなかったので、そういう点においても楽しみだった。
地下鉄千代田線千駄木駅を出て、すぐの信号を渡る。数歩歩いてわかる。いつもとは「違う」ところに入り込んでいることを。
散策マップを片手に歩いている人たち。江戸民芸の「いせ辰」はこんなところにあったのか。
ギャラリーは住宅地、道路に面した階段を上がったところにあった。ふつうの住宅を改造したような感じ。ごめんくださいと声を掛けたくなる。
本人はいないだろうと思っていたらいきなり本人がいた。お話を伺いながら作品を観た。彼女は招き猫や福助人形を題材に「人が知らない彼らの日常」を描いている。日本画を専攻していたということで、和紙に墨で描いている。その世界観は独特で、コミカルな題材のはずが異界のものを覗き込んでしまったような気持ちにさせる。真夜中歩いていたら、薄汚れて虚ろな目をしたキューピー人形に出会ってしまったときに感じるヤバさ。
平面作品だけでなく、てびねりの招き猫などもあった。そこで眼にしたのは真っ黒く顔の所が金色で半月状に塗られている作品。他の物とは「違う」。来てみたところ、夢に見たものだという。この人の作品は見る人を無意識界に強制的にリンクさせるものなのかもしれない。
DMに印刷されていた作品はニューヨークで展示したときに元絵が紛失してしまったらしい。展示しているシルクスクリーン(30部限定)のみしか残っていないという。他にもむやみに折られてしまったりと散々だったそうだ。
惹かれる作品があったが、そう気軽に買える値段でもない。小一時間ほど堪能して辞することにした。
外をでるとすでに夕方。朝から何も食べていないことに気がつき、蕎麦屋に入ってちょっと引っかけた。新装した雰囲気の店だったので期待したが、それなりの味。
小腹は膨れたが、気持ち的に物足りなかったのでちょっと気になった喫茶店に入ることにした。その店の名は「乱歩」。入り口周辺には猫関係の張り紙がたくさん張ってある。さきほどのギャラリーといい、この町は猫に何か因縁があるのだろうか?
不思議に思いながら店に入る。そこは、また異空間だった。ジャスを流していて、それ関係の書籍や資料が置いてあるがそれよりも目をひくのは、民芸品などの雑貨。それもどちらかといえば、セクシャリティな意味を持たせるものが多い。店内の暗さも相まって独特の雰囲気を持っていた。
夕方なので、散策客もほとんどなく、地元の人たちが文庫本を片手に時を過ごしている。壁を見渡すとマスターの知り合いのアーティストの作品らしいものが飾られている。カウンターには個展のDMがいくつか置いてあった。
私は入り口手前のカウンターに座った。喫茶店にしても居酒屋にしても、初めての店はなるべくカウンターに座ることにしている。そうすれば、その店が判るからだ。マスターが、馴染みの客がどんな人なのか知れる。カウンターのない店は単なる「店」でしかなく、「居場所」にはならない。今回もそういうことでカウンターに座った。店の雰囲気からおそらくブレンド1種類しかないと思われたので「コーヒー、1つ」と注文。出されたのは私ごのみのサラリとしたコーヒーだった。置いてある本や雑誌に触手が動かなかったので、私はコーヒー片手に文庫本のテキスト化に勤しんでいた。
私の後から女性が入ってきて、カウンターに座った。馴染みらしく、マスターに今日の出来事を話している。今日は上野動物園に行ってきたと。何を見たのだろうと、アヴァンティの教授よろしく耳をそばだてると、「バナナの木を見た」と。心の中でずっこけた。全てを見て回ろうとしたのではなく、ふらふらと散策したようだ。その行動パターンに個性を感じた私はもう少し観察してみることにした。
絵日記らしきものを書いていた。水性ボールペンで細かい文字で書き書き。手慣れたイラストが眼に入る。と、カウンター上に置いてあるDMを数えだした。どうやら彼女のDMらしい。つまり彼女はアーティストだということだ。気にしていなかったDM、よく見ると先ほどから気に掛かっているカウンター脇の絵に似ている。発色が全然違うので気が付かなかった。
「もしかして、この絵は・・・」と額縁に手を掛けながら彼女に尋ねた。やはり同じ作品だった。手元に引き寄せ、絵の全体が見えて、驚いた。その絵は非常にセクシャルな絵だたからだ。下部がものに隠れていたとき、私は暗い部屋に佇む女性の絵だと思っていた。確かに佇んでいたが・・・。
この女性に町田さんと同様の異質なもの、異界への扉のようなものを感じ取った。私はDMを受け取った。今度、銀座のギャラリーで個展をするという。作家名は「綺朔ちいこ」。
マスターが飼っている猫としばし遊んだ後に「乱歩」を後にした。すでに日は落ち、辺りは闇に包まれている。逢ヶ魔刻か・・・。私は軽い疲労感と共に駅に向かって歩き出した。
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