それは偶然の重なる一日だった。
予定よりも遅れて家を出た。渋谷から井の頭線に乗って、吉祥寺に。スターパインズカフェに着いたのは16時半ちかく。今日発売の鈴木祥子のライブチケットを購入した。開店の16時に間に合わなかったために整理番号は45番。入手できただけでもいいか。
遅めのお昼を食べようと商店街をうろつく。折角、吉祥寺に来たのにチェーン店に入るのは勿体無い気がしてうろつく。和菓子屋が目に留まって近づく。だが、買う気にならずにその脇の路地に入った。一間ほどの路地にカウンターの店がいくつも並んでいる。面白い。この通り沿いの店で食事をしよう。この時間から呑み始めている人もいる。予定がなければ私も‥‥。個性的な店が並ぶ。学祭の模擬店の通りを歩いている気分になる。マグロ丼とチラシが貼ってある「橙々」という店のカウンターに座った。店長は30前後の女性。隣で40代の夫婦が焼き鳥を摘まみながら呑んでいる。アヴァンティの如く、耳を澄ませるとどうやら業界系の人のようだ。店長が今度の休日に行こうとしている蕎麦屋がお客の知り合いの店だったらしい。話をつけてやろうとやおらケータイを取り出す。元町にある蕎麦屋?東京の話だと思っていたのだが、元町ということは‥‥確か「松村」と言っていた気がする。あの通り沿いに確かに蕎麦屋があった気がするが。時間があれば、自分も話に加わって詳細を聞くのだが仕方ない。いつか調べる機会もあるだろう。グーグルで検索したり、足で調べたり。会計時に夜11時までやってますと声を掛けられたので、「今度は呑みにきます」と答えた。
JR吉祥寺駅から中央線に乗って20分後、原宿に。CROWのライブ会場のアストロホールの開場は18時。恐らく列が出来ているだろうが、余り意味はない。30分ほど時間があるのでどこかでお茶をしよう。アストロホール周辺をぶらついて店を探すことにした。
交差点を渡って歩き出してすぐに、「お茶」と書かれ抹茶を点てた写真が貼られている小さな立て掛け看板だった。「竹下通りに程近い、こんな場所でお茶はないだろう。表参道沿いならばともかく。」そう思って苦笑しながら通り過ぎ、てぽてぽ歩いた。お酒を出す店はは目に付くが落ち着ける場所は見当たらない。店の開拓も兼ねているので安易にファーストフードに収まりたくない。裏道沿いにも面白い店が沢山あることは判ったが、目的に合う店は見当たらず。
さて、どうしよう。先程の看板を思い出した。思いっきりハズレの予感がするが、最悪でも日記のネタになるだろう。そんな考えで、看板の脇の路地に入る。目的の店は3F。本当に店があるのだろうか?階段を恐る恐る登る。隣のビルもマンションのようなのだが、普通の部屋をお店にしている。突き当たりの部屋のドアが開いていて、飾られた衣装が見えた。
3Fに到着。一応、営業しているようだ。引き戸を開けて中に入った。その店の名は「和紙アート ふしみ」[->http://www.mjapan.com/main/present/fushimi/fushimi2.html]。
テーブルが2つに大きなテーブルが1つ。周囲には和紙を使った品や陶芸品が飾られている。窓には障子が張られていた。女性が二人でてくる。喫茶が本当にできるのか確認したところ、大丈夫そう。低めの大テーブルの腰掛けに腰を下ろす。メニューは抹茶のセットと健康茶(?)のセットの2つ。抹茶のセットを注文。一息ついてから周囲を改めて見回した。場所柄に似合わない、落ち着いた雰囲気。趣味の店だねぇ。
抹茶とお茶受けのお菓子がお盆に載せられてやってきた。お菓子は山陰のお菓子職人によって作られたものだという。さくらんぼの形を模した和菓子。表面の赤い部分が甘酸っぱい。お茶を飲み終わったころに、店長なのだろう女性が「二服目はいかがですか?こちらの方は余り頂かないみたいですが‥‥」と声を掛けた。もう少しお茶の甘さを感じたいので頂く。そして考えた。その言葉から、この人が店長で、地方からの出店であることが推測される。山陰の和菓子。陳列されている和紙の表書きに「出雲和紙」の名が。山陰の茶道と言えば、確か松平不昧公の‥‥
「あの‥‥こちらのお店は島根から出店されたのですか?」 推理は当たった。店長さんも松江に昔住んでいたことがあるらしい。そこで、松江に住んでいる友人(大井さん)がいる事や7月に(詳しくは言えないが)玉造温泉に行ったことなどを話した。商品以外に幾つか積まれていた本を気にしていたら、本の話に。シェイクスピアの作品が好きで訳されたものは全部読んだという店長に、恥ずかしながらまだ1つも読んだことがないと答えた。キェルケゴールも『絶望』する者の姿を巧みに描き出しているとシェイクスピアを誉め、読むことを薦めている。なので、読もうと思っていたが果たしてまだ一冊も手に取ったことがなかった。
「これからライブを見に行く予定があるので余りゆっくりできないのです」と言った流れから、ダリエさんを紹介することに。といっても、偶々鞄のなかにあったFC会報を見せただけだが。「綺麗な方ですね〜」これから行われるライブの主催がダリエさんだと勘違いされているようだが、上手く説明できない。「ユニット」だ、「コラボレーション」だという単語を出しても混乱するだけ。
入るまではとても不安だったのだが‥‥どうやら『当たり』を引いたようだ。
開場時間を過ぎてきたが、予定通り私の順番ではまだ並んでいる段階。待たずに入場。前回と同じ前段の中央後方に位置した。CROWのファンは相変わらず女性が多いのでここで十分視野を確保できる。
今回はどんな趣向なのだろう。BBSでの書き込みから今回も相当凄いことになっているらしい。心地良いドラムの振動に揺られる事を期待しつつ、宴が開かれるのを待った。
そして『宴』は始まった。今回のコラボレーションは演劇とのコラボレーション。妖しい世界が展開される。俳優達の台詞を聞き取れるように音量は全体的に抑え目。上領さんもダリエさんもヘアメイクやメイクアップが妖しい。
俳優達の口から零れ、体が表すそれは‥‥『シェイクスピア』だった。
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