絶望のこの形態には世間では全然といってもいいくらい気づいていない。こういうふうに自己自身を放棄する人は、まさにそのことによって却って世間の取引を旨くやってのける骨《こつ》、いな、世間で成功をかちうる骨を体得するにいたるからである。こういう人々の場合には彼の自己とその自己の無限性への努力が彼を邪魔したり彼に煩らいを齎《もた》らすなどということがなくなる、彼は小石のように滑らかに擦り減らされており現今流通の貨幣のように通りがいい。世間は彼を絶望していると看なすどころか人間はすべてかくあるべきものと考えるのである。一般に世間は(これは当然のことだが)真実に怖るべきものの何たるかを全然理解していない。ただに生活に何の不都合をも来さないだけでなく、かえってその人の生活を安易な愉快なものにするような絶望が全然絶望と看なされていないのはむしろ当然である。世間の考えがこういうものであることは就中《なかんづく》ほとんどあらゆる格言−−これは大抵は処生訓にすぎないものであるが−−についても窺《うかが》われる。例えば、饒舌《じょうぜつ》には十度の、沈黙には一度の後悔があるということがいわれる。なぜであるか? 口に出していったということはひとつの外的な事実であり、それ自身ひとつの現実なのであるから、それはひとをいろいろな煩らいのうちに捲きこみうるからである。けれどももし口に出していわなかったとしたら! 実はこれこそ危険きわまることなのである。

 
 口に出して言おう。私は本日、「マリア様がみてる」オンリー同人誌即売会『薔薇色革命?』の会場を訪れたと(自爆)。
 ひ〜ん、あさみさん達のサークルとダリエファンクラブ仲間の吉成綾加さんのサークルに挨拶に行っただけで‥‥。
 『いばらの森』第二版をサークル・クロスロードで買い求めたときに、「マリみてPBeMに参加していますよ。大井さんの紹介で‥‥」と自己紹介しかけたら、「ああ、DIR‥‥Sさんですよね」と返された(がたがた)。
 
 イベント終了後、あさみさんたちと遅い昼食を会場地下の食堂で取った。食堂はアヤシイ団体に会場の7割を占拠されていた。どうやら、講演会をしているらしい。聞こえてくる話が‥‥イタスギル。どうやら自然保護活動家の講演らしいのだけれど‥‥。とりあえず、我々の笑いのツボを刺激してくれるのは止めて欲しい。食事中に。講演者だけでなく観客もヘンな人が多かったみたい。講演に対する質問がどうしたら自慢話大会になるのだろう。馬脚現しっぱなし。
 浜松町駅であさみさん達と別れ、川崎に。理髪店に寄った後、吉野家で牛丼を食す。先程軽く食べたばかりで食欲はなかったが、名残惜しむために‥‥。
 マユールに18時半ほどまでいた後、チネチッタ川崎に。ようやく「ラストサムライ」を観た。ツッコミたいところもあったが、お金を払った分は楽しめたのではないか。ただ、私は観客としては余りに頭でっかちになりすぎていた気もする。
 
 

 というのは沈黙においては人間は全く自己自身へと孤立せしめられる、そこでは現実がやってきて彼の世話をやくということがない、−−現実が彼の言葉の結果を彼の上に齎らして彼を罰するというようなことがないのである。しかり、そういう意味では沈黙は決して危険を齎らしはしない。けれどもまさしくその故に、怖るべきものの何たるかを知っている人は、その進路を内側にとって外に何の痕跡《こんせき》をも残さないような罪・咎《とが》をこそ何にもまして最も怖れるのである。それからまた、世間の眼から見ると冒険は危険である。なぜであるか?冒険には失敗の可能性がつきまとうから。冒険しないこと、それが賢明である! しかも我々は冒険さえすれば容易に失うことのないもの(よしほかにいかに多くのものを失おうとも)をかえって冒険をしないために怖ろしいほどやすやすと失うことがありうるのである、−−すなわち自己自身を。少なくとも冒険するのはかくもやすやすと、あたかも何も失われはしなかったかのようにかくもやすやすと、自己自身を失うというようなことはない。もし私の冒険が誤っていたとすれば、そのときはそのときで、人生が刑罰によって私を救ってくれるであろう。しかしもし私が全然冒険を試みなかったとしたら、一体誰が私を救ってくれるのであるか? ことにもし私が最高の意味での冒険(最高の意味での冒険とは自己自身を凝視することにほかならない)を避けて通った卑怯さのおかげで、あらゆる地上的な利益を獲得することはできたが、−−自己自身はこれを喪失したとしたら?


 「人、全世界をもうくとも、己が生命を損せば、何の益あらん」

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