歌劇『ファウスト』 ~ 幸福と不幸のあいだの弁証法
2009年6月21日 演劇 友人のてっこさんがヴァイオリン奏者として参加しているアマチュア歌劇団ガレリア座の歌劇「ファウスト」を観た。
アマチュアで全5幕全て上演するというのは日本ではかなり珍しいことらしい。4時間弱の長丁場、舞台に立つ歌手はもちろん音楽を奏で続ける楽団は大変だ。てっこさん曰く、初めてのゲネプロでは疲れ果てたという。
しかし、観ている方はそれほど長時間に感じなかった。初見であることもあるだろうが、舞台を見終わり、腕時計を見て驚くという感じだった。
歌劇「ファウスト」だが、基本的には悲劇・・・なのだろう。
引き篭もってヲタクな趣味に明け暮れ、人との関わりを避け、『青春』の素晴らしさを無視してきた孤独な老人ファウストが、外から聞こえてきた《リア充》達の笑い声を耳にして己の今までの人生に絶望し、「お前も《リア充》になれる」とうまい話を持ちかける浅黒い肌の美丈夫と契約してしまう。
浅黒い肌の男の魔法で魅力的なイケメンになったファウストは、まだまともに恋をしたことすらない美しい村娘マルガリーテを誘惑する。
マルガリーテに思いを寄せる幼馴染シーベルの素朴なアプローチは千の貌をもつ男の力を借りた勝ち組男ファウストのプレゼント攻勢に藻屑と消える。
すっかりファウストに魅了され、初めて本当の恋に落ちたマルガリーテ。
それを認めない、許さないシスコンのヴァランタン。
大勢の部下の犠牲や敵の屍の山によって成り上がった男。
ヴァランタンはオレのモノである大事な妹を奪ったファウストが許せず、決闘を仕掛けるが返り討ちにあってしまう。
認めない、認めないぞ~と、シスコンのヴァランタンは死の間際に駆けつけたマルガリーテに呪詛を吐く。
オレの許しもなく、オレの知らない男と結ばれ、あろうことか身篭りやがった、オレのモノだったマルガリーテよ、呪われよ!
兄の呪詛に対するSANチェックにファンブルし、(20d6)ポイント正気度を失ったマルガリーテは発狂する。
狂気は伝播し、ヴァランタンの部下だったシーベルも人であることを止めてしまう。
千の貌を持つ男に導かれ、魔宴の快楽に身をゆだねていたファウストは、己が我侭が齎した様々な破滅に気づいて恐怖する。
狂気の末、ファウストとの甘い恋の思い出の世界に住むマルガリーテは、ファウストが消えてから産み落としたわが子の存在を認められない。彼女はわが子をネグレクトにより死に至らしめたことすら理解できない。
己が子殺しの罪を理解できないまま、処刑の日を迎えるマルガリーテの前に今更ながらファウストが現れるが、幸せな狂気の住人であるマルガリーテには彼の声が届かない。
千の貌をもつ男の出現により、その幸せが奪われるのではと怯えたマルガリーテは旧支配者ではない神に救いを求め、息絶える。
そして、老人ファウストも破滅する。息絶えたマルガリーテに近づこうと足掻き、ようやっと彼女の傍らで息絶える。
さて、“籠の中の鳥”マルガリーテは幸福だったろうか?不幸だったろうか?
そして、“ひっきー”ファウストは幸福だったろうか?不幸だったろうか?
私はデンマークの映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を想起した。
悲劇ではある。が、決してただただ不幸だったとは言えない。
光あるところに影があり、影があるところに光がある。
恐るべきは、のっぺりとなにもない、光でも影でもなく《無》であること。
・・・そして、肌が浅黒い、《夢》であり、《幻》であり、《無》である男は二人の最期を見届けた後、小さく肩をすくめて歩き去っていった。
次の興味深い人間に出会うために・・・
アマチュアで全5幕全て上演するというのは日本ではかなり珍しいことらしい。4時間弱の長丁場、舞台に立つ歌手はもちろん音楽を奏で続ける楽団は大変だ。てっこさん曰く、初めてのゲネプロでは疲れ果てたという。
しかし、観ている方はそれほど長時間に感じなかった。初見であることもあるだろうが、舞台を見終わり、腕時計を見て驚くという感じだった。
歌劇「ファウスト」だが、基本的には悲劇・・・なのだろう。
引き篭もってヲタクな趣味に明け暮れ、人との関わりを避け、『青春』の素晴らしさを無視してきた孤独な老人ファウストが、外から聞こえてきた《リア充》達の笑い声を耳にして己の今までの人生に絶望し、「お前も《リア充》になれる」とうまい話を持ちかける浅黒い肌の美丈夫と契約してしまう。
浅黒い肌の男の魔法で魅力的なイケメンになったファウストは、まだまともに恋をしたことすらない美しい村娘マルガリーテを誘惑する。
マルガリーテに思いを寄せる幼馴染シーベルの素朴なアプローチは千の貌をもつ男の力を借りた勝ち組男ファウストのプレゼント攻勢に藻屑と消える。
すっかりファウストに魅了され、初めて本当の恋に落ちたマルガリーテ。
それを認めない、許さないシスコンのヴァランタン。
大勢の部下の犠牲や敵の屍の山によって成り上がった男。
ヴァランタンはオレのモノである大事な妹を奪ったファウストが許せず、決闘を仕掛けるが返り討ちにあってしまう。
認めない、認めないぞ~と、シスコンのヴァランタンは死の間際に駆けつけたマルガリーテに呪詛を吐く。
オレの許しもなく、オレの知らない男と結ばれ、あろうことか身篭りやがった、オレのモノだったマルガリーテよ、呪われよ!
兄の呪詛に対するSANチェックにファンブルし、(20d6)ポイント正気度を失ったマルガリーテは発狂する。
狂気は伝播し、ヴァランタンの部下だったシーベルも人であることを止めてしまう。
千の貌を持つ男に導かれ、魔宴の快楽に身をゆだねていたファウストは、己が我侭が齎した様々な破滅に気づいて恐怖する。
狂気の末、ファウストとの甘い恋の思い出の世界に住むマルガリーテは、ファウストが消えてから産み落としたわが子の存在を認められない。彼女はわが子をネグレクトにより死に至らしめたことすら理解できない。
己が子殺しの罪を理解できないまま、処刑の日を迎えるマルガリーテの前に今更ながらファウストが現れるが、幸せな狂気の住人であるマルガリーテには彼の声が届かない。
千の貌をもつ男の出現により、その幸せが奪われるのではと怯えたマルガリーテは旧支配者ではない神に救いを求め、息絶える。
そして、老人ファウストも破滅する。息絶えたマルガリーテに近づこうと足掻き、ようやっと彼女の傍らで息絶える。
さて、“籠の中の鳥”マルガリーテは幸福だったろうか?不幸だったろうか?
そして、“ひっきー”ファウストは幸福だったろうか?不幸だったろうか?
私はデンマークの映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を想起した。
悲劇ではある。が、決してただただ不幸だったとは言えない。
光あるところに影があり、影があるところに光がある。
恐るべきは、のっぺりとなにもない、光でも影でもなく《無》であること。
・・・そして、肌が浅黒い、《夢》であり、《幻》であり、《無》である男は二人の最期を見届けた後、小さく肩をすくめて歩き去っていった。
次の興味深い人間に出会うために・・・
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